< じっちゃんの椅子 >
南の部屋の縁側に
 
古くて重い
 
じっちゃんの椅子がある
 
 
6月の雨が降る朝
 
じっちゃんは、家を離れる
 
突然、病に倒れたじっちゃんは
先の見えない治療に入るため
入院をすることになった
毎日、畑仕事に精を出し
黙々と汗を流す日々
太陽の恵みと、土の匂い
日焼けした顔からこぼれる笑顔
麦わら帽子を目深にかぶり
首には、ちゃんとゴムバンドを掛けて
真面目な性格がうかがえる

手ぬぐいは、腰ベルトに引っ掛けて
汗拭き拭き、生き生きと
畑を耕し、草を引く
軽自動車のバックミラーには
ばっちゃんの写真と孫の写真
風に揺られて、田んぼのあぜ道を
軽快に走り抜けて行く、じっちゃん

じっちゃんは椅子に座り
黙って庭を見ている
言葉を掛けたいのに掛けられない
じっちゃんの心を思うと
押しつぶされそうになる
70年慣れ親しんだ家を離れる朝
後ろ姿が悲しかった


10月のとある日
 
じっちゃんは、帰ってくる
もう少しで帰ってくる
生きたいという、意欲で
戦い抜いた
頑張って 頑張って 頑張って
その言葉は、言っちゃいけないけど
もう少しだから頑張って
 
ねぇ 大好きな、じっちゃん
田んぼと畑が待っている
実りの秋の収穫は無いけど
大根に白菜にほうれん草
固くなった土に肥やしをやり
耕し、耕し生き返る畑
ひとつひとつ丁寧に種を蒔けば
みごとな冬野菜とじっちゃんの
喜びの顔が浮かぶ
そして・・・
 
南の部屋の縁側には
 
お帰りと迎えてくれる
 
古くて重い、じっちゃんの椅子がある
 
 
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HP 「フジコかあさんとジャックの”ほのぼのハウス”
気ままな詩 より
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